【歯科医師解説】親知らずが神経に近くても抜歯できる?
この記事では「親知らずが神経に近い」といわれている方へ
抜歯できるのか、リスクや検査方法について歯科医師が執筆監修しています。
また万が一神経麻痺が起きた場合の治療方法についても解説します。
親知らずとは
人間の歯は、親知らずも含めると上下左右で32本の歯が存在します。
親知らずは、一番奥に生えてくる8番目の歯です。
日本人の場合、親知らずは早い人は高校生くらい、遅い人は20代前半くらいに生えてきますが、親知らずの生え方によっては、生えてこない場合があります。
親知らずが生えてこない場合は、元々先天的に親知らずが存在しない場合や、親知らずが横向きに存在している場合があります。
よって親知らずは4本全部ある人もいれば、2本だけある人、1本もない人と様々です。
親知らずはなぜ痛くなる?
親知らずはお口の中で一番奥に存在する歯なので、セルフケアが非常にしにくいです。
そのため、親知らず周辺にはプラークが溜まりやすくなります。
これによって親知らずが生えている場合は、虫歯になりやすくなります。親知らずが埋まっている場合では、親知らずの周りの組織に炎症を起こしやすくなります。
親知らず以外はすごく綺麗なのに、親知らずだけ虫歯があるといった方はよくいらっしゃいます。
よって親知らずの痛みは虫歯が進行して痛みが出る場合と、親知らずの周りの組織が炎症を起こして痛みが出る場合の2種類があります。
親知らずを抜歯する必要がある?
日本人の場合、欧米人に比べて顎が小さいため、親知らずが横向きに生えてくる場合がよくあります。横向きに生えていても骨の中に完全に埋まっている場合は感染による痛みを伴うことは少ないですが、骨から少しでも歯が飛び出している場合は感染のリスクがあります。
さらに、歯肉から親知らずが少しでも生えていると虫歯になるリスクがあります。
このような場合は抜歯した方が良いです。
またしっかり親知らずが生えていて、上下でしっかり咬んでいたとしても、セルフケアがしにくく、虫歯や感染のリスクが高い場合は抜歯した方が良いです。
親知らずが存在している場合は、抜歯するリスクと残すリスクをよく歯科医師と相談して抜歯するか否かを決定すると良いでしょう。
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上の親知らずを抜歯する際に注意すること
上の親知らずを抜く際に注意しなければならないのは、根の先端が上顎洞という鼻の空洞の一部に近接していることです。
抜歯を行うと、偶発的に上顎洞に穴が空いてしまうことがあります。
レントゲン等で親知らずが深い位置に存在する場合は、穴が空く確率が少し上がります。
また、上の親知らずの場合は基本的に神経麻痺を起こすことはありません。
リスクの高い場合は、親知らずの抜歯に慣れている医院で抜歯することをお勧めします。
下の親知らずを抜く際に注意すること
下の親知らずを抜きたい時に注意しなければならないことは、根の先端が神経と血管の束である下顎管に近接していないか、しっかりと分析してから抜歯しなければならないことです。
下顎管の中には下歯槽神経と下歯槽動脈が入っており、いずれも歯や顎の感覚受容や組織の代謝の維持を担う重要な神経や血管です。
もし下顎管を傷つけてしまうと大量出血や神経麻痺を引き起こします。
下顎管の中を走行している下歯槽神経は感覚神経のため、麻痺が起こっても口が開かなくなったり、頬が垂れたりすることはありませんが、ずっと麻酔が効いているような感覚麻痺を引き起こします。
また、非常にまれではありますが舌神経を傷つけてしまった場合は味覚に異常がでることもあります。かなり奥深くにある神経なので基本的には起こりませんが、場所が悪かった場合、舌神経の損傷も下の親知らずを抜歯する際のリスクの一つとして考えられるでしょう。
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下顎管との位置関係を把握するために必要な検査
下顎管と歯の根の先端との位置関係を把握するためには、歯科用のコンビームCTでの検査がお勧めです。
撮影診断費用は保険適用の3割負担で3,500円くらいです。
コンビームCTは従来の医科用CTと比べて被曝量が少なく、またデジタル処理をするため、撮影後すぐに現像が可能です。
撮影すると、歯の根の先端と下顎管との3次元的な位置関係を把握することが可能です。
人によっては下顎管が枝分かれしていることや、親知らずの根尖が想像以上に下顎管と癒着していることもあり、2次元のレントゲン写真では把握困難なことがコンビームCTでは把握可能になります。
コンビームCTは全ての歯科医院に設置されているわけではないので、通常のレントゲン写真で根の先端と下顎管が近接している場合はコンビームCTが設置している歯科医院で抜歯することをおすすめします。
実際はかなり近接していても麻痺は起こらない?
コンビームCT撮影後、根の先と下顎管がかなり接近していたとしても、歯科医師がそれに配慮して抜歯するため、ほとんど神経麻痺が起こることはありません。
ただしリスクがゼロなわけではありません。
根の先が下顎管にかなり近接している場合は歯科医師の方からリスクは必ず説明されます。
説明後には通常同意書を書かされます。
万が一神経麻痺が起こったとしても、説明同意を得ましたよという同意書です。
抜歯や神経麻痺について少しでも不安なことがあればこの段階で歯科医師に相談すると良いです。
レントゲンやコンビームCTの画像診断、患者さんの全身状態等を加味し、歯科医師の判断で神経に近接している難しい抜歯を多く経験している口腔外科へ紹介される場合や、抜歯自体を中止した方が良いと勧められるかもしれません。
もし神経麻痺が起こってしまったら?
仮にもし神経麻痺が起こってしまったら、神経麻痺の治療が開始されます。
ほとんどの場合神経を少し傷つけただけなので、神経を中から活性化させるビタミン剤やATP製剤、ステロイドなどの投薬治療や、レーザーや遠赤外線を当てて外から活性化させたりします。
場合によっては、神経ブロック注射をされることもあります。
神経麻痺が起こったとしても、このような対応を受ければ治癒することが多いですが、中には半永久的に神経麻痺が残ってしまうこともあります。
稀ですが、神経を完全に分断された場合は、神経を繋げる手術が行われることがあります。
まとめ
親知らずは生え方によっては早めに抜歯した方が将来的なリスクが少ないです。
もちろん親知らずを抜歯した後は一時的に痛みや腫れが出る可能性がありますが、
若い年齢で抜歯した方が新陳代謝が良いため、年齢を重ねてからの抜歯よりも治りが早いです。
特に下の親知らずを抜歯する前に、
「下顎管に近接している」
と歯科医師から告げられた場合はリスクをよく考えてから抜歯するようにしましょう。
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執筆 歯科医師/issy
国立歯学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部附属病院で研修、現在勤務医として一般歯科、矯正歯科に携わっている。
日本口腔インプラント学会所属