前歯をぶつけたらどうする?歯科医師が症状別に解説します
前歯は転んだりぶつけたりすると、損傷を受ける代表的な歯の部位です。
特に前歯は見た目に表れるところなので、前歯を失わないためにも、もし前歯をぶっかけた場合は適切に対処することが大切になってきます。
執筆 歯科医師/issy
国立歯学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部附属病院で研修、現在勤務医として一般歯科、矯正歯科に携わっている。
日本口腔インプラント学会所属
前歯をぶつけたときに起こる症状とその原因
歯が動く、ぐらぐらする
歯が動いたり、グラグラする場合は、歯が脱臼したり、破折している場合があります。
ぶつけた時の強い衝撃により、歯と骨をつなぐ靭帯が切れてしまったことによります。
歯がずれる、位置が変わる
歯がずれたり、位置が変わった場合は転位と呼ばれ、靭帯が切れ、本来歯がなかった場所に歯が移動してしまいます。
歯がめり込む、歯茎に入り込む
強い衝撃により、歯が歯茎の中に入り込んだ状態を陥入といいます。歯の萌出方向と同じ向きに力がかかることによって起こることが多いです。
歯が変色する、黒くなる
歯の変色や歯が黒くなることは、ぶつけてからしばらく経ってから起こることが多いです。これはぶつけた衝撃により、歯の神経が死んでしまったことが原因です。
歯が欠けた
歯に部分的な力がかかると、歯が欠けてしまうことがあります。痛みを伴うこともありますが、神経付近までかけない場合は痛みを伴わないこともあります。
前歯をぶつけたときにすぐに行うべき対処法
歯が抜けた場合
歯が抜けた場合は、抜けた歯を持ってすぐに歯科医院を受診することが大切です。時間が経過するほど歯が元に戻りにくくなるので、注意してください。歯を持っていく方法は、教育機関等で歯の保存液があればそれを利用し、なければ牛乳の中に入れて持っていくのが最適です。これらが準備できない場合は、自分の唾液の中に入れて持っていってください。汚れがついているからといって、決して水道水等で洗ってはいけません。
歯の位置がずれたり、めり込んだ場合
歯の位置がずれたり、めり込んだ場合は、歯の位置を整復する必要があります。自分では患部を触らず、すぐに歯科医院を受診しましょう。
歯が折れた場合や歯が欠けた場合
歯が折れた場合や欠けた場合には折れた場合、痛みがなければ緊急性はありませんが、なるべく早めに歯科医院を受診することをお勧めします。また、欠けた破片を一応持っていくことが最良です。
歯が痛む場合
歯が痛む場合は神経の炎症が起きている場合、歯が打撲や脱臼している場合、歯の根や歯を支えている骨が折れている可能性があります。一刻も早く歯科医院を受診することをおすすめします。痛みに我慢できるのであれば、痛み止めを飲まずに受診すると良いです。痛み止めを飲んでしまうと、歯科医院で診断を鈍らせる可能性があるからです。
前歯をぶつけたときに必要な歯科治療
歯が抜けたり、抜けかけている場合
歯が抜けている場合は、まず乳歯と永久歯で対応が分かれます。
乳歯の場合
歯を元の位置に戻すことはまずしません。永久歯が生えてくるまでそのままです。
永久歯の場合
元の位置に戻そうとしますが、歯が抜けてからどのくらい時間が経ち、その間どのような保存状態であったかがポイントです。歯を戻せたとしても神経の治療の治療が必要です。歯が抜けかけている場合や転位している場合は、整復して元の位置に戻し、材料で固定します。歯が抜けたり、抜けかけている場合で治療しても予後が悪い場合は、抜歯となることもあります。
歯の打撲の場合
歯が抜けるまでの力はかからないが、歯に強い衝撃が加わった場合、歯が打撲になることが多いです。打撲の場合は基本的にそのまま様子を見ることが多いですが、歯が動揺している場合は、固定することもあります。
歯が欠けた場合
歯が欠けた場合は神経に達しているか否かで治療方針が変わってきます。神経に達している場合は神経の治療を行います。神経に達していない場合は、欠けた部分を詰め物で治したり、被せ物で治したりします。
歯が破折している場合
歯が破折している場合は、どこまで破折しているかで治療方針が変わってきます。歯冠と呼ばれる歯が見えるところまでの破折であれば歯を残すことができますが、歯根と呼ばれる歯の根の方まで破折していると基本的には抜歯となってしまいます。
歯を支える骨が折れている場合
稀ではありますが、歯を支える歯槽骨という骨が折れていることがあります。この場合は折れた骨を整復し、固定する処置が必要な場合があります。一般的な歯科医院で対応できない場合は口腔外科のある大きな病院に紹介になることもあります。
前歯をぶつけた時の費用と治療期間
前歯をぶつけた場合の費用
基本的に健康保険適用となるため、市町村にもよりますが、子供の場合は無料か数百円程度で済むことがほとんどです。大人の場合は3割負担、高齢者の場合はそれ以下の負担率になるため、1万円を超えることはまずありません。ただし、ぶつけた衝撃で骨が折れてしまい、入院等になってしまった場合は入院代もかかるため、1万円以上かかることもあります。
治療期間
受ける処置によって様々です。少し歯が欠けた程度や打撲の場合は1回から2回で終わることになりますが、神経の処置や固定した場合は数ヶ月単位で経過を追っていく必要があるため、長期になります。大人の場合、抜歯となった時や、歯が戻せない時は人工的に歯を補う治療が必要になるため、さらに長期となります。
前歯をぶつけた後の予防と注意点
前歯をぶつけた後、よくある話がまたすぐに前歯をぶつけてしまうことです。一度前歯をぶつけたら、その原因を追求し、同じようなことが起こらないように対処することが大切です。特に子供の場合は、中々コントロールが効かないことも多いですが、ささいなことでも、予防のためにできることは何でもしておいた方がよいです。また、ぶつけた直後は異常なしと診断されたとしても時間が経ち、神経の炎症が起こることもあります。その場合、歯の色が黒くなり、痛みを伴うこともあります。
まとめ
前歯をぶつけたら、無症状であったとしても念のため歯科医院を受診することが賢明です。前歯は笑った時や口を開けた際の見た目に関わる部分なので、油断せずなるべく早めに受診するようにしましょう。