インプラントや矯正をしていてもMRI検査はできるの?
歯科治療では、多くの金属を使用して治療を行います。インプラントに使用されるチタン、矯正治療に使用されるコバルトやクロム、ニッケル、歯冠修復に使用される銀やパラジウムなど、金属の種類も多岐にわたります。このような金属を使用した歯科治療を受けた後、MRIを撮影してよいのかという疑問があります。
歯科治療ではなぜ金属を多用して治療するのか?
歯科治療は通常の医科の治療から独立しています。それは歯科の治療の対象である歯が、自己修復能力がないからです。例えば転んで足を怪我したとしても、何も治療しなくとも多くの場合治癒します。すなわち自己修復能力があるからです。一方歯が転んで欠けたとします。歯は自己修復能力がないため、欠けた部分が自然に治ることはありません。よって歯が欠けたり、歯の一部または全部を失った場合、材料による修復が必要になります。歯は非常に硬い組織のため、歯に負けない強度を持たせるために、元来歯科治療では金属を多用してきました。
MRIについて
MRIは画像検査の一つで、人体に多く含まれる水素原子に電波をあて、それによって生じる電気信号を画像化したものです。最大の特徴は、放射線被曝しないというところです。他のレントゲン撮影やCT撮影、シンチグラフィーといった画像検査はすべて放射線被曝するため、MRIは体にやさしい画像検査といえます。MRIは骨などの硬い組織だけでなく、筋肉や血管などの軟らかい組織もある程度鮮明な画像が得られるため、病気の診断や経過をみるために、比較的多く撮影されることが多いです。
歯科治療でMRIを受けることがあるのか
歯科治療でMRI撮影をよくする疾患として、顎関節疾患があげられます。顎関節は歯科の得意分野である骨などの硬い組織だけでなく、筋肉や繊維などの軟らかい組織も豊富なため、従来の画像検査に加えて、MRI撮影をすることもあります。
ただし、一般の開業医レベルではMRIを撮影することはできないので、MRIを撮影するには大きな病院や専用の施設で撮影する必要があります。また口腔がんの診断や状況確認のためにも、MRIが撮影されることがあります。口腔がんも軟かい組織が豊富な部分に発症することもあるので、MRIは重要な画像診断の一つとなります。
MRIを受けるにあたり、歯科治療の際に注意すること
MRIを撮影するにあたって、歯科治療で注意しなければならないのは、磁性金属を使用している場合です。磁性金属とは、その名の通り、磁石の力を発する金属のことです。歯科治療では、歯やインプラントの上に磁性金属を付与し、補綴(入れ歯やブリッジやインプラント)側にも磁性金属を付与して、磁石の力で補綴物の維持をとろうとするシステムを採用する場合があります。磁性アタッチメントとも呼ばれます。磁性金属が体内に存在する状態でMRIを撮影すると、画像が大きく乱れるだけでなく、磁力で検査室内のものが引き寄せられ、怪我をする可能性があります。
磁性アタッチメントについて
磁性アタッチメントが歯科で使用される理由は、先に述べたように、歯を失ったことによる補綴物の維持力を獲得するためです。歯を多く失うと、補綴物を維持するための残存する歯も少なくなり、残存する歯に維持が取れたとしても、その負担は大きくなります。
また、歯が全くない無歯顎な患者さんに対しては、顎骨に維持を求めなければなりません。そこで、歯やインプラント上、そして補綴物にも磁性金属を付与し、維持力を磁石に頼ることで、その問題を解決します。治療としては比較的簡便で、侵襲性も大きくないため、有効な治療選択肢として採用されることが少なくありません。
磁性アタッチメントがお口の中に入ってしまっている場合は?
磁性アタッチメントがお口の中に入っている状態で、MRIを撮影しなければならない場合は、磁性アタッチメントを除去しなければなりません。磁性アタッチメントがインプラントや歯に装着されている場合は、除去しなければならないため、MRI撮影後に磁性アタッチメントを再作製しなければならない可能性があります。磁性アタッチメントを使用した治療を選択した場合は、MRI撮影が必要になった場合どうなるのかを事前に確認してから、治療を受けるようにしましょう。
磁性アタッチメントは健康保険の対応になるのか?
磁性アタッチメントを歯に装着する場合は、一部保険適用の対象となります。インプラントに装着する場合は、保険の対応となりません。磁性アタッチメントを使用する治療を希望する場合は、保険の適応になるのか事前に担当の歯科医師に確認をしましょう。
その他の金属を歯科で使用してもMRI撮影は大丈夫?
磁性金属がお口の中に入っている場合、MRI撮影には影響が出ますが、その他の歯科で使用される金属ではどうなのでしょうか。結論から言うと、その他の歯科で使用される金属が口の中に入っていたとしても、基本的には問題ありません。インプラントで使用されているチタンや、ワイヤー矯正で使用されているニッケルチタンやステンレス、コバルトクロムなども特に気を使う必要はありません。しかし、頭の部分のMRIを撮影する場合は、歯科で使用する金属が入っていると画像が乱れることがあるので、撮影する機会がある場合は、事前に医師や放射線技師に申告すると良いでしょう。
今後の歯科治療の金属使用について
歯科治療では多くの金属が現状なお使用されていますが、その傾向が近年徐々に変わってきています。保険診療内でも強度プラスチックでの詰め物や被せ物が使用できるようになってきていますし、ジルコニアという硬いセラミックの登場で、セラミック治療の幅が広がっています。また、チタンを使うインプラントにおいても、セラミックや人工骨の成分でできたインプラントも登場してきています。金属を使用しないマウスピース矯正の適応拡大で、従来のワイヤー矯正の需要も減ってきています。
金属を使用しない、メタルフリーの歯科治療が今後どんどん広がる可能性が高いでしょう。歯科治療を受けた後のMRIの撮影も、難なく気にせずできる時代がくるのかもしれません。
磁性アタッチメントを装着している場合ご確認ください。
歯科では多様な金属を使用しますが、磁性金属を使用しない限り、MRIの撮影はまず問題ありません。ただし、磁性金属以外の金属がお口の中に入っていると、MRIの画像が乱れることがあるため、事前に告知することが望ましいです。
執筆 歯科医師/issy
国立歯学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部附属病院で研修、現在勤務医として一般歯科、矯正歯科に携わっている。
日本口腔インプラント学会所属