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インハウスアライナーとは?最新のマウスピース矯正の特徴・メリットを歯科医師が徹底解説!
矯正

インハウスアライナーとは?最新のマウスピース矯正の特徴・メリットを歯科医師が徹底解説!

監修者:府中けやき通り矯正歯科院長 平岡孝文先生 

日本矯正歯科学会認定医

キャリア20年以上のベテラン矯正医。最新の技術に常に敏感で、インハウスアライナーについても初期から目をつけ、すぐに自院で実用化させた。現在はインハウスアライナーの導入を検討している多くの矯正医に指導している。

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最新の治療方法・インハウスアライナーってどんなもの?
マウスピース型矯正装置が広く使用されるようになって数年。マウスピース型矯正装置が進化を続ける中で、近年注目されてきているのが”インハウスアライナー”

いったいどんな治療でしょうか?

従来のマウスピース型矯正装置との違いやインハウスアライナーのメリット、最新の治療方法だからこその注意点など、知っておくと治療の選択に役立つ情報を徹底的に調べてみました。

インハウスアライナーとは?

インハウスアライナーとは、歯科医院内で製造するアライナー(マウスピース型矯正装置)の総称です。インオフィスアライナー、インラボアライナーとも呼ばれます。

一方、よく耳にする”インビザライン”や”シュアスマイル”などの製品名がついているアライナーは、製造をメーカーに任せる外注型のアライナーです。

そもそもアライナーはどのようにして製造されているのでしょう。インハウスアライナーでも外注型アライナーでも、アライナーの基本的な作製方法は次のようになっています

口腔内スキャン

提供:府中けやき通り矯正歯科

歯科医院で患者さんのお口の中のスキャンし、STLデータを作成します。

治療計画立案

担当医が問題点をリストアップし、どのようにきれいな歯並びにしていくか計画を立てます。

デジタルセットアップ作成

提供:府中けやき通り矯正歯科

ゴールの歯並びをソフトウェア上で作成し、歯を動かす量やアタッチメント(歯の表面につける樹脂製の突起物)をどのようにつけるか設計していきます。

歯列模型の3Dプリント

JAO日本版(クインテッセンス出版)2024年5号より改変引用

現在の歯並びからゴールまで少しずつ歯を移動させた歯列模型を3Dプリンターでプリントします。

樹脂シートの成型

提供:府中けやき通り矯正歯科

薄いプラスチックのシートを加熱し、3Dプリントした歯列模型に圧接してアライナーを作成します。
成型したアライナーを模型から外し、トリミングして形を整えたらアライナーの完成です。

パッケージ

提供:府中けやき通り矯正歯科

着ける順番を間違えないように1つ1つパッケージしていきます。

インハウスアライナーと外注型アライナーの違いは、上記の過程をすべて歯科医院で行うか、一部をメーカーが行うかです。

インビザラインなどのマウスピース型矯正装置では、アライナーの製作はメーカーに外注しています。
上記の手順のうち、【③デジタルセットアップ作成】をメーカーの歯科技工士が行い、歯科医師が修正を行って最終的に承認がおりれば、【④歯列模型の3Dプリント】~【⑥パッケージ】をメーカーの工場で行って歯科医院へ発送される、という流れでアライナーが患者さんの手に届けられます。

一方、インハウスアライナーでは、装置の設計をした後のアライナーを作る工程もすべて医院内で行います。院内での工程が多く歯科医院側の手間はかかってしまいますが、アライナーの設計から製作までメーカーの手が入らないため、メーカーが規定するアライナーの枚数・期間などの制限がなく、配送を待つ必要もありません。

外注型アライナーでは、アライナーを製作してくれるため歯科医院の負担が少ないことが利点の一つですが、製造にメーカーが介在しているために生じる制限があります。
一度に動かす歯の移動量やアライナーの素材・トリミングの方法などを歯科医師が選択できず、メーカーによって一律に定められていることがあるのです。

インハウスアライナーでは、装置にかかわるすべてのことを歯科医師がこだわりを持って設計・製作できるため、歯科医師の持つ知識や技術によってはこれまでの外注型アライナーよりもさらに実現性の高い治療となる可能性があります

そもそも外注型とインハウス、どちらの場合でも、アライナー型矯正治療では治療を進める歯科医師の適切な知識が重要です。デジタルセットアップを用いてコンピューター上で患者さん一人ひとりに合わせた理想的な歯並びを作り上げていき、患者さんの最初の歯並びからの歯の移動をシミュレーションしますが、この時に歯科医師が、計画された歯の移動が可能であるかを正しく判断できるかが非常に重要となってきます。この判断が正しくなされないと治療がうまくいかない原因となるのです。
歯は、コンピューター上ではどのような動きをすることも可能なため、その動きが現実的に可能かどうかを歯科医師が生体力学を理解して判断し、適切に歯の動きを計画していくことが重要です。

そのうえでインハウスアライナーでは、必要な歯の移動を効率的に行えるように、アタッチメントや歯の移動量・アライナーの素材や形状に何を選択するか、歯科医師が細かく設計していくことができます。
インハウスアライナーは、自由度が高く、熟練した歯科医師の技術が反映されやすい、従来の外注型アライナーよりも実現性を高められる可能性がある治療方法です。

インハウスアライナーのメリット

患者さんにアライナーが早く届く

提供:府中けやき通り矯正歯科

外注型のアライナーでは、装置を設計した後、メーカーの工場でアライナーが作製され医院へと発送されますが、装置が届くまでにかなりの時間を要します。

装置の設計の際にはメーカーの歯科技工士と数回やり取りが必要な場合が多く、レスポンスを待つのに時間がかかります。また、アライナーを作製する工場は海外にあるため、装置ができても医院に届くのに時間がかかってしまうのです。

このような理由で、外注型のアライナーでは通常、患者さんがお口の中のスキャンを取ってから装置が手元に来るまで、短くても2週間~長ければ1か月以上の期間を要します。

インハウスアライナーは口腔内スキャンをしたあとすぐに院内で装置の設計・製作ができるため、タイムラグが生じません。院内に歯科技工士がいて連携がとれていれば、さらに早くアライナーを作製することができるので、最短で当日~翌日に患者さんにアライナーを手渡すことができます

長期間を要する矯正治療において、このような時間を大幅に節約することができるのは非常に魅力的ですね。

装置の自由度が高い

提供:府中けやき通り矯正歯科

インハウスアライナーにおける最大の利点、それは『自由度』です。

外注型アライナーでは、メーカーの規定する素材・形状・アタッチメントでアライナーを設計します。患者さんごとに装置を発注できる期間や枚数にも制限があります。

ひとりひとりの患者さんに最適な治療を施そうとする際に、このような制限が歯科医師にとって足かせとなってしまう場合があるのです。

外注型アライナーには、そのメーカー特有のメリットがある場合もありますが、アタッチメントや素材、形状などあらゆる要件を自由に選択できるインハウスアライナーは、様々な制限が多くあるアライナー治療において最大のメリットです。

治療計画を柔軟に変更できる

提供:府中けやき通り矯正歯科

アライナー治療では、治療の途中で、装置を装着してもぴったりはまらずやや浮いた状態になる場合があります。装置がしっかり適合していないと歯に適切な力がかからないため、必要な場合には再度口腔内スキャンを行い、新しく装置を設計・製作していくことになります。

治療計画の修正を行う際にも同様に、口腔内スキャンと装置の再製作が必要です。最初に装置を設計したときと同じような手順で進めていくので、外注型アライナーの場合は装置が届くのをまた待たなければなりません。

それに対し、インハウスアライナーでは迅速に装置を患者さんに装置を届けることができます。
そのため歯科医師も柔軟に治療計画を変更することができる
ので、経過をみながら最適な治療を進められます。

インハウスアライナーのデメリット・注意点

歯科医師の知識・歯科医院の設備が必要

提供:府中けやき通り矯正歯科

アライナー治療には、ワイヤー矯正とは別にさらに専門の知識が必要です。
インハウスアライナーを扱うには、そのアライナー治療に対するさらに専門的で深い知識が求められます。

ソフトウェア上で歯列のデザインや装置の設計をしていると、いかなる歯の動きも可能なように感じられることがありますが、それが治療の落とし穴となることがあります。そのため、治療計画を立てる歯科医師が、アライナーによって歯がどのように動くのか十分に理解していないと実現性の高い治療計画にはなりません。

インハウスアライナーはその自由度の高さ故、装置の要件についてあらゆる選択肢があるため、歯科医師が広い知識を持っている必要があります。

また、院内でアライナーを製造するには相応の設備が必要であるため、様々な高額な機械を購入し、場合によっては装置の設計から製作に携わる歯科技工士を雇わなければなりません。歯科医院にとって経済的・人材的・時間的負担がかかるため、インハウスアライナーを取り扱っている歯科医院は外注型アライナーを取り扱う歯科医院よりも大幅に少ないのが現状です。

材料に注意が必要

提供:府中けやき通り矯正歯科

これはインハウスアライナーに限った話ではありませんが、アライナーは薬機法未承認のものがあります。外注型アライナーは工場が海外にあるため未承認となっています。

インハウスアライナーでは、アライナー素材に関しても担当医が自由に選択することができるため、歯科医師はその安全性について十分に配慮して選択する必要があります。

また、アライナー成型に使用する模型やダイレクトプリンティングアライナー(模型にシートを圧接して作製するのではなく、アライナー自体を3Dプリントしたもの)では、未重合レジンによるアレルギー反応が報告されています。特に、ネイル等に使用されるレジンに起因したアレルギー症状を経験した方など、不安がある場合は担当医にご確認ください。

インハウスアライナーはどんな人におすすめ?

歯の生えかわり時期のお子さん

小学生ごろのお子さんでは、乳歯が脱落して永久歯が生えてくる、歯の生えかわりが起こります。
この時期にアライナー矯正を行っていると、短期間にどんどんお口の中の状態が変わってくるので装置が合わなくなる、ということが起こりやすいです。

このような場合にはインハウスアライナーが有利です。
外注型アライナーでは装置が合わなくなるたびに口腔内スキャンをして、装置の配送を1か月程度待つことになりますが、インハウスアライナーだと院内で装置を再製作することができるため、歯の生えかわりによる装置の不適合に迅速に対応することができます。

治療をさくさく進行したい方

装置が目立たないアライナー矯正をしたいけど、海外からの配送を待たなければいけないのは時間がもったいないと感じる方には、インハウスアライナーが適しています。

治療途中に計画通りの歯の動きがみられなかった場合も、迅速に計画の修正を行うことができるため、外注型アライナーより治療中の無駄な時間がありません。

しかし最新の治療方法のため、安全性等を考慮して難易度の高い症例にはインハウスアライナーを用いないこともあります。担当する歯科医師とよく相談して、自分自身が適応症例であるかどうかを確認してみるのがおすすめです。

インハウスアライナーの治療の流れ

インハウスアライナーでも通常の矯正治療とおおまかな流れは変わりません。
大きな違いは、『装置が手元に届くのが早い』ことです。

初診相談

治療を行う歯科医院で矯正治療についての説明を聞きます。
医院の治療の特徴や、大まかな治療方針を聞き、治療を開始するか判断します。

検査・診断

治療を始める決断をしたら検査から行います。
顔貌写真や口腔内写真、エックス線写真を撮影します。
インハウスアライナーの場合、ここで必ず必要になるのが”口腔内スキャン”です。
お口の中に小さなカメラを入れてお口全体のスキャンを撮影していきます。
場合によってはCT撮影も行います。

検査結果をもとに担当医が診断を行い、詳細な治療計画を立てていきます。

装置装着

治療計画をもとに装置を設計し、アライナーを製作していきます。
インハウスアライナーでは数日内に装置が完成するので、治療計画の立案から実際の治療開始までのタイムラグが非常に少ないです。

矯正治療が始まったら、担当医の指示通りの使用時間・交換日数を守って装置を使っていきます。
使用時間をしっかりと守る”というのは、外注型アライナーとインハウスアライナーどちらにも共通する最重要事項です。

治療途中は定期的に担当医の診察を受け、必要に応じて口腔内スキャンと装置の製作を行っていきます。

保定

きれいな歯並びが完成したら後戻りを防ぐための保定装置に移行します。
保定装置も担当医の指示を守って適切に使用していきます。

インハウスアライナーの治療を受けるには?

インハウスアライナーには術者の知識や技術・医院の設備が求められるため、取り入れている医院はまだ多くはありません。気になる方は、ホームページや矯正相談でその歯科医院がインハウスアライナーを扱っているかどうかを確認してみてください。

ただ、外注型アライナーのメリットももちろんあるので、担当の歯科医師が患者さんの歯並びを確認したうえで、その人に最適だと判断した治療を行っていくのが間違いないと思われます。

まとめ

近年話題となっているインハウスアライナーのあれこれをまとめていきました。
なんといっても装置の設計・治療計画の修正の自由度の高さが魅力的な治療方法です。新しい治療方法のため発展途上な部分もありますが、今後さらに技術が進歩していくとより一層、安全で精度の高い治療ができるようになることが期待されます。

この記事が、矯正治療に興味がある方の手助けとなれば幸いです。
いろんな治療方法をじっくり検討して、素敵な矯正ライフを過ごしてください!