矯正で歯肉が下がる原因と対策、治療方法を歯科医師が解説!
矯正治療では歯に力をかけることによって歯が動いたり、口の中に機械的な装置を装着したりと、口の中で色々な変化が起こります。
その変化の1つとして、矯正治療中に歯肉が下がることがあります。
矯正治療中に歯肉が下がってしまうのは、一体何故なのでしょうか?
矯正するとなぜ歯肉退縮が起こる原因は?
矯正期間中のお口の中のお手入れ不足
お口の中のお手入れ不足で歯に汚れが溜まると、歯肉が炎症を起こします。
炎症が長く続くと歯肉の中の細胞やコラーゲンが破壊されてしまい、歯肉が退縮してしまいます。
矯正装置のお手入れ不足
矯正治療はどんなに良い治療を選択しても、必ず装置を使用します。
装置は使用していくと汚れが付着するため、お手入れがしっかりできていないと、装置に付着した汚れが歯肉の炎症を起こし、歯肉が退縮してしまいます。
過度な矯正力
矯正治療では、歯を動かすために歯に力をかけます。
力は歯を支える骨に伝わり、骨の吸収や再生という代謝が起こります。
歯にかける力が強すぎると、歯を支える骨の再生がうまくいかないことがあります。
歯を支える骨の再生がうまくできないと、連動して歯肉が下がることがあります。
骨が薄いところへの歯の移動
歯を支える骨が薄いところに力をかけると、骨の代謝がうまく行われず、歯を支える骨の再生がうまくいかないことがあります。
過度な力が歯に加わった時と同じように、歯を支える骨が再生できないと、連動して歯肉が下がることがあります。
矯正で歯肉退縮が起こるデメリット
見た目の問題
歯肉が退縮すると、歯が長く見えてしまうため、見た目の問題がでます。
退縮した歯肉の部分以外のところが退縮していない場合は、余計に目立ってしまいます。
虫歯になる
歯の表面はエナメル質という固い層で保護されています。
この固い層があることで細菌が産生する酸から守ってくれています。
歯肉が退縮した歯の部分はエナメル質が存在しない歯の根の部分が露出するため虫歯になりやすいです。
知覚過敏の症状が出る
歯肉が退縮した歯はエナメル質の保護がないため、冷たいものや温かいもの等で刺激すると、神経まで伝達物質が伝わりやすくなります。
これにより、知覚過敏の症状が出やすいです。
歯がグラグラする
歯肉が退縮しているということは、歯肉を裏打ちする骨も通常よりは少なくなっていることが多いです。
すなわち歯を支える骨が少なくなるため、歯がグラグラすることがあります。
矯正で歯肉が下がったと感じたらすること
お口のお手入れをしっかりする
まずはしっかりとお手入れをすることによって歯肉の炎症をとることが大切です。
炎症をとることによって、歯肉の退縮を防ぐことができます。
矯正治療中は、通常の清掃器具ではお口の中をきれいにすることが難しい場合があります。
そのような場合は、矯正治療中専用の清掃補助器具の使用をお勧めします。
矯正装置のお手入れをしっかりする
お口の中のお手入れと同じくらい矯正装置のお手入れも大切です。
お手入れに不安がある場合は歯科医師や歯科衛生士に相談することをお勧めします。
装置を綺麗に保つためには機械的な洗浄だけでなく、化学的な洗浄も大切です。
市販の洗浄剤でも十分な対応が可能ですが、特に歯科医院で販売されている洗浄剤は、高濃度で殺菌成分が多く含まれているものが多いです。
歯科医師に相談
兎にも角にもまずは歯科医師に相談することをお勧めします。
歯肉退縮の原因は多岐にわたるため、自分でこれと決めつけない方が無難です。
歯肉退縮の予防方法
力がかかりにくい矯正方法を選択
従来のワイヤー矯正に比べて、インビザラインをはじめとするマウスピース矯正は歯にかかる矯正力が比較的緩徐とされています。
もちろん全ての歯列不正にマウスピース矯正が適応になるわけではありませんが、歯肉退縮が気になるのであれば、なるべく緩徐に力のかかる矯正装置を選んだ方が無難です。
事前にCTを撮ってもらう
矯正治療の前に事前にCT撮影をして、動かす歯の骨の厚み、及び動かす先の骨の厚みを確認しておくことも大切です。これにより、骨の薄いところは力をなるべくかけないようにすることも可能です。
歯肉が下がってしまった際の治療方法
歯肉が一旦下がってしまったところは、自然に元に戻ることはありません。
しかし、外科的に元に戻すことはできます。
全ての歯科医院で対応できるわけではないので、かかりつけの歯科医院で相談することをお勧めします。治療方法には下記の2つがあります。
遊離歯肉移植術
上顎の裏側の硬い歯肉を切り取り、歯肉が下がってしまったところに移植する方法です。
有用な方法ですが、外科的な処置となるため、術部に痛みや腫れが出ることがあります。
歯肉弁側方移動術
歯肉が下がってしまった歯の隣の歯の歯肉を、完全に切り取らない形で移植する方法です。
一箇所に限局した歯肉退縮に適用となります。
まとめ
矯正治療中に歯肉が下がる原因は多岐にわたります。自分で原因を特定することはほぼ不可能なため、歯肉が下がってきたら歯科医師に相談するようにしましょう。
一旦歯肉が下がってしまったところは自然に元に戻ることはありませんが、外科的に治療することは可能です。
執筆 歯科医師/issy
国立歯学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部附属病院で研修、現在勤務医として一般歯科、矯正歯科に携わっている。
日本口腔インプラント学会所属