【歯科医師解説】顎変形症治療で後悔しないために!費用や入院期間、流れを説明!
顎変形症ってなんでしょう?
矯正治療について調べていたら出てきたんですけれど…
顎変形症とは、顎骨の形態異常やバランス異常により顔貌形態や咬み合わせが崩れ、
審美的及び機能的な障害を生じている状態です。
例えば…
下顎骨が大きくなると受け口の状態になり、これを下顎前突といいます。
上顎骨が大きくなると出っ歯の状態になり、これを上顎前突といいます。
顎に左右差があり顔全体がゆがんでしまうこともあります。
顎変形症は様々な原因で引き起こされますが、治療する際は、場合によっては手術が必要なものとなります。
①顎変形症の原因
顎変形症の原因は多岐に渡り、多くの症例ではその原因が明らかなものは少ないです。以下のようなものが一般的には考えられています。
・先天性疾患
生まれつきの遺伝子の問題があり、顎骨の発育不全を引き起こすものがあります。
口唇裂・口蓋裂、Crouzon症候群やApert症候群では中顔面の発育不全を引き起こすため、
上顎の劣成長を引き起こします。
Goldenhar症候群やTreacher Collins症候群、Robinシークエンスなどでは
下顎の劣成長を引き起こします。
・後天性疾患
顎骨における腫瘍、嚢胞、骨折、顎骨周囲の炎症や神経疾患、放射線照射でも顎変形症を引き起こします。
特に乳児から小児期における顎骨骨折は、顎骨の発育不全を引き起こします。
・局所原因
先天性の歯の欠損や虫歯による幼少期の歯の喪失は、過剰な顎骨の発育を促す原因になります。
舌突出癖や指しゃぶり等の悪習癖は、開咬や上下顎前突を引き起こす可能性があります。
鼻炎等による口呼吸は口腔周囲筋の筋力低下につながり、開咬や上下顎前突を引き起こします。
②顎変形症の診断基準
顎変形症と診断するためには、まずは
・口腔内診査
・口腔内写真
・通常のレントゲン写真やセファロ写真(矯正用の規格レントゲン写真)
・口腔内の模型
等の資料から、骨格的な異常が強い場合、矯正歯科医が顎変形症と診断します。
その後、口腔外科医に資料を渡し、口腔外科医側でも顎変形症と診断された場合に確定診断となります。
③顎変形症の保険適応について
上記のように骨格的な異常があり、矯正歯科医と口腔外科医が顎変形症と確定診断した場合に限り、顎変形症は保険適用となります。
口腔外科医が行う手術、及び手術の前後の術前矯正、術後矯正も保険適用となります。
まずは矯正歯科を受診する必要がありますが、全ての矯正歯科を標榜している歯科医院で顎変形症の保険適用か否かを診断できるわけではありません。
顎口腔機能診断施設という一定の施設基準を満たしている歯科医院のみで診断が可能なので、
保険適用か否かの診断を受けたい場合は、受診する歯科医院が施設基準を満たしているかどうか事前に調査してから、受診することをお勧めします。
対応施設なのかどうかは医院のHPに書いてあることもありますが、記載がなければ予め電話で確認しておくと良いでしょう。
④顎変形症の治療について
軽度のものであれば、矯正治療のみで治療可能な症例もありますが、外科的な手術を必要とする症例も多くあります。
手術が必要な場合、矯正歯科医と口腔外科医が連携し、手術の前後に矯正治療を組み合わせることが多いです。
手術は全身麻酔で行われ、入院も必要となります。治療が終了した後も、定期的な検診が必要となります。
⑤顎変形症の治療のリスク
・手術は必ず全身麻酔で行われる
顎変形症で手術が行われる場合は、必ず全身麻酔で行われます。
全身麻酔において確率は非常に低いですが、命を落とすこともあります。
顎変形症の手術は直接生命に関わる手術ではないため、リスクを十分に理解して受ける必要があります。
・神経麻痺を起こす
顎変形症の手術が行われると人工的に骨を切断する手術が主になるため、顎骨の中を走行する神経を損傷する可能性があります。
神経を損傷すると神経麻痺を引き起こします。
術後は多くの方が一時的な麻痺を起こしますが、基本的には1年以内に完治します。
顎骨の中を走る神経は三叉神経といわれる神経で、主に口腔内の知覚をつかさどります。
この神経が神経麻痺を起こすと口腔内の感覚が鈍くなります。
・手術後の感染について
顎変形症の手術を受けた場合は必ず入院となります。
入院は5日〜2週間と医院によって異なり、手術の程度や術後の感染が強い場合は入院期間が長くなることもあります。
⑥顎変形症の手術方法
顎変形症は軽度のものは矯正治療のみで治療可能ですが、
重度の場合や骨に変形があるものに関しては手術の適応となります。
顎変形症の手術方法は様々ありますが、主に行われているものは以下の2つです。
・下顎枝矢状分割術
下顎骨を体と垂直方向に分割し、下顎骨を関節突起など含む外側と、含まない内側に分離します。
分離された骨は前後的な移動、上下左右方向の回転にも対応できるため、下顎骨のあらゆる不正咬合に対応できます。
適応は下顎の成長不良及び過成長、下顎の非対称症や開咬症です。
・Le Fort(ルフォー)I型骨切り術
上顎骨を体と水平に切断し、上顎骨を完全に分断させ、顔貌及び咬合を理想的な位置に移動させ、
固定する方法です。
上顎骨の前後的あるいは垂直的な成長不良、及び過成長が認められる症例が適応となります。
その他の手術には以下のようなものがあります。
・上顎前歯部歯槽骨切り術
上顎骨の前歯部の骨を切断し、後方に移動させる方法で上顎前突が適応になります。
・下顎枝垂直骨切り術
下顎骨を関節突起と筋突起の間から下顎下縁にかけて垂直に骨を切る方法です。
下顎前突や下顎非対称症が適応となります。
下顎枝矢状分割術よりも神経麻痺が起こりにくいのが特徴です。
・下顎前歯部歯槽骨切り術
下顎骨の前歯部の骨を切断し、後方に移動させる方法で下顎前突が適応になります。
・顎骨延長法
顎骨骨切り手術の際に骨延長装置を装着し、手術後から骨延長を開始して、理想的な位置に顎骨を移動させる方法です。
下顎枝矢状分割法やLe Fort I型骨切り術でも治療が困難な顎変形症に用いられます。
・オトガイ形成術
オトガイ部の骨を水平に骨切し、その骨片移動によるオトガイの位置や形態を修正する方法です。
オトガイの形態異常が適応で、他の顎変形症の手術と併用されることがほとんどです。
具体的な術式はこちらも参考にしてみて下さい?
図解も載ってます。
→長崎大学病院口腔外科顎口腔再生外科学分野 顎変形症の手術方法
まとめ
顎変形症は顎骨の形態異常により、審美的な障害だけでなく、咀嚼、発音、呼吸といった機能的な障害も引き起こします。
軽度のものであれば、矯正治療のみで治癒するものもありますが、
手術が必要な場合も多くあります。
顎変形症の手術が必要な場合はそのリスクと必要性をよく理解した上で受けることをお勧めします。
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執筆 歯科医師/issy
国立歯学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部附属病院で研修、現在勤務医として一般歯科、矯正歯科に携わっている。
日本口腔インプラント学会所属